美しい中国の山岳風景と暖かい人とのつながりが、静かな感動を生む。
1999年製作の中国映画 上映時間93分
この映画を最初に観たのは20年程前、まだ認知症で亡くなった父と一緒に正月のWowowの放送で観ました。なぜかその時の情景を鮮明に覚えています。
観終わった父の一言 “いい映画だな。”
きっとこの映画で映っていた中国の山岳地帯の村々の様子が、父の生家の子供の頃の情景と重なっていたのだと思います。
当時まだテレビはブラウン管の時代で、中国の山岳地帯の情景がとても美しく再現されていたのを今でも忘れられません。
今DVDで鑑賞すると、解像度が甘く、大型のモニターでは不満が残ります。
現在は、人気が出たのかBlu-rayでも発売されています。
私:☆☆☆☆(4) Amazon:☆☆☆☆(4.2) Yahoo!映画:☆☆☆☆(4.1)
1.ストーリー
1980年代、中国湖南省の山岳地帯の郵便配達を長年務めていた父が、息子に仕事を引き継がせるため、一緒に最初であり最後となる旅をする物語です。
主要な登場人物は、父と息子と母、そして「次男坊」と呼ばれている犬だけです。
派手な出来事はなく、途中で会う村の人々との出会いが、息子の独白を交えて物語は進んでいきます。
物語に唯一花を添えるのが、トン族の美しい娘との初恋の思い出にも似た出会いです。
偶然、村の結婚式の日に訪れたので、親子で式に招待されます。
父は、この娘を息子の嫁にと考えている様に感じられました。
息子は息子で、母が山岳民族の出だったので、山里の人は山里で暮らすのが幸せでないかと考えます。
そして旅が終わった後、今度は息子は一人で次男坊と一緒に配達に出るのでした。
2.制作と出演者
監督 霍建起
脚本 思蕪 秋実
原作 『那山那人那狗』彭見明
出演者 滕汝駿(父)
劉燁(息子)
趙秀麗(母)
陳好(トン族の娘)
1999年中国金鶏賞(中国アカデミー賞)
最優秀作品賞 最優秀主演男優賞
1999年モントリオール映画祭
観客大賞
2000年インド国際映画祭
銀孔雀賞
撮影した地方は、天候が変わりやすく、それも瞬時に変化するので、撮影のタイミングに大変苦労したようです。また、山道ばかりで撮影機材の運搬にも、困難を極めたそうです。
グーグルマップで、確認すると、その山岳地帯には幹線道路が殆どないのが分かります。
ロングショットを撮っていた時、録音技師が“どん”という音を拾い確認すると、主演の滕汝駿さんが、崖下に滑り落ちていたというエピソードも残されてます。
3.最後に
監督の霍建起はこう語ってます。
「父親を描くときは、父の事を考えました。
今自分が何歳であろうと、父親にとっては息子だし、息子にとっては父親・・・
立場は、色々です。
家族というものは、どの人も、どの国、どの民族も変わらないと思います。」
この映画では、中国の山岳地帯の山々の緑や、水墨画のような風景、田舎の路地などの美しさを楽しむことが出来ます。
また、陳好(トン族の娘)がとても魅力的で、自分自身の初恋の甘酸っぱく楽しかった思い出が脳裏をよぎります。
そして私は、この映画を観るたびに、亡くなった父の事を思い出します。