シリーズ第三弾、佳境というにはちょっと早いのですが、老中・田沼意次の娘・佐々木三冬の存在感が増してきます。彼女の恋の行方は、どのようになるのでしょうか。
寝る間も惜しんで読んでしまいます。
また、池波正太郎の描写が絶妙なのは、このシリーズを通して、三冬の容姿については詳しい描写はないのだが、通りすがり人の目を通して、その美しさを表現しているところにあります。
田沼意次は、色々な小説では悪人として描かれることが多いのですが、実際はこの小説で描かれているように奥が深い人であったように思われます。
なぜなら、江戸の三大改革のように質素・倹約をおし進めると、経済は回らなくなり、庶民の生活は逆に苦しくなるからです。
主な登場人物
■秋山小兵衛 かつての高名な剣客、今は隠居して郊外におはると住んでいる
■秋山大治郎 秋山小兵衛の息子。剣術道場を開いているが門弟は殆どいない
■おはる 19歳、小兵衛の下女であったが小兵衛に手をつけられて妻となる
■佐々木三冬 老中・田沼意次の隠し子で、男装の女剣士。井関道場の四天王のひとり
■田沼意次 時の最高権力者で老中。三冬の実父
■弥七 小兵衛の剣術の弟子で、四谷伝馬町の御用聞き。女房は、料理屋を経営
■小川宗哲 小兵衛の友人で町医者
■傘屋の徳次郎 御用聞きの弥七の子分
■浅田忠蔵 剣術修行中の秋山大治郎が、三ヵ月逗留した道場の道場主
■与兵衛 料亭・不二楼の亭主。おかみに頭が上がらない
陽炎の男の目次
佐々木三冬に芽生える秋山大治郎への思い・・・
1.東海道・見付宿
秋山大治郎は、旅の商人が宿の女中おさきから預かったという手紙を渡される。
手紙の差出人・浅田忠蔵には、たしかにおぼえがあったが、そのたどたどしい筆跡にはおぼえがなかった。
ただならぬ事態が起こっていると感じた大治郎は、父・小兵衛と相談して、ひとり遠州・見付けに向かう。
2.赤い富士
不二楼の亭主・与兵衛から池大雅の「赤富士」を見せられた秋山小兵衛は、どうしてもその絵が欲しくなってしまう。ところが与兵衛は、意外にも譲ってくれそうもなかった。 そんな時、大井半十郎と名乗る侍が、与兵衛を訪ねてきた。
3.陽炎の男
佐々木三冬は、久方ぶりに根岸の別宅に帰ってきて、風呂で物思いにふけっていた。
そこへ浪人風の男たちが、押し入ってきた。
難なく切り抜けた三冬であったが、三冬をみる総髪の男は、不審そうな表情を浮かべていたのだった。
一体あの男達は、何の目的で押し入ってきたのか?
4.嘘の皮
暴漢に襲われていた侍を助けた秋山小兵衛。
その侍は、かつての門人の旗本の跡取り息子・村松伊織であった。
その伊織は、よりにもよって「すじの通った男」として知られる香具師の元締・鎌谷辰蔵の一人娘に手を出していたのだ。
秋山小兵衛は、この絶体絶命の危機を丸く治めることができるのか?
5. 兎と熊
その日、秋山小兵衛は、小川宗哲の様子がおかしいのに気が付いた。話を訊きだすと、宗哲の愛弟子・村岡道歩の一人娘・房野が攫われたという。娘を返す条件は、毒薬の調合であった。
相手が大名か大身の旗本とみた小兵衛は、弥七や大治郎と共に動き出すのであった。
6. 婚礼の夜
弥七の配下の傘屋の徳次郎は、探索に来た中間部屋の賭博の帰り道で、あやしい浪人が話し合っているのを聞いてしまう。彼らの「奴め」という人物は、秋山大治郎の友人・浅岡鉄之助であった。
相談を受けた秋山小兵衛は、自分の出る幕はないと全てを大治郎に任せるのであった。
7.深川十万坪
秋山小兵衛は、橋の上で不思議な光景を見た。
三人の侍から男の子をかばっていた婆さんが、侍をひょいっと川に放り込んだのだ。
この怪力婆さんは、一体何者なのか?
小ネタ
徳川将軍の家来の中で、旗本は、将軍に目通りがゆるされる二百石以上の幕臣で、それより下は御家人と呼ばれていた。
「剣客商売 陽炎の男」年譜
書籍名 | 発表月 | 表題 | 出版社 |
---|---|---|---|
剣客商売第三巻 陽炎の男 | 1973年3月 | 東海道見附宿 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第三巻 陽炎の男 | 1973年4月 | 赤い富士 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第三巻 陽炎の男 | 1973年5月 | 陽炎の男 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第三巻 陽炎の男 | 1973年6月 | 嘘の皮 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第三巻 陽炎の男 | 1973年7月 | 兎と熊 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第三巻 陽炎の男 | 1973年8月 | 婚礼の夜 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第三巻 陽炎の男 | 1973年9月 | 深川十万坪 | 新潮社、新潮文庫 |