この第十一巻で一番心に刺さったのは、「その日の三冬」です。
三冬待ってました!!
長く続いた江戸時代は、戦もなく天下泰平の世で、それだけに剣が強いというだけでは、仕官の道すらなかった時代でした。そんなやるせなさを感じる小編です。
身分も固定でしたし、有能な人材が能力を発揮できる場がない時代でした。
考えてみると、今の大企業も「能力重視」といいつつも、年功序列で、早期退職制度をしても、残って欲しい優秀な社員から辞めていくという傾向にありますね。
今も昔も変わりませんね(´・ω・`)
【主な登場人物】
■秋山小兵衛 かつての高名な剣客、今は隠居して郊外におはると住んでいる
■秋山大治郎 秋山小兵衛の息子。剣術道場を開いているが門弟は殆どいない
■おはる 小兵衛の下女であったが小兵衛に手をつけられて妻となる
■三冬 老中・田沼意次の隠し子で、女剣士。秋山大治郎の妻
■飯田粂太郎 飯田平助の子。秋山大治郎の最初の門人
■笹野新五郎 秋山大治郎の二番目の門人
■田沼意次 時の最高権力者で老中。三冬の実父
■生島次郎大夫 田沼家の用人
■弥七 小兵衛の剣術の弟子で、四谷伝馬町の御用聞き。女房は、料理屋を経営
■文蔵 弥七と親交がある御用聞き
■小川宗哲 小兵衛の友人で町医者
■傘屋の徳次郎 御用聞きの弥七の子分
■杉原秀 杉原左内の娘で、根岸流手裏剣の達人
■又六 鰻の辻売りをしている。素直で実直な男
■杉本又太郎 無外流の道場主。「狐雨」の事件から、めきめきと腕を上げる
■植村友之助 かつて秋山小兵衛の弟子で、逸材といわれた男
■為七 知的障害の中年のかわいそうな男
【勝負の目次】
1.剣の師弟
秋山小兵衛は、二人の侍が一人の町人と斬りあっているのを見た。れっきとした侍
二人は、町人に軽くあしらわれてしまったのである。
その後煮売り酒屋で酒を飲んでいた小兵衛は、先程の町人とかつての門人・黒田精太郎が、連れ立って入ってきたのを見て驚いた。
黒田精太郎は、人を三人も惨殺して、江戸を出奔し、行方をくらませていたのだ。
2.勝負
「その試合には、負けてやれ。」と秋山大治郎は、父・小兵衛から、いきなりそういわれた。試合の相手は、牧野越中守貞長への仕官がかかっている、江戸でも名が知られている谷鎌之助であった。
不服そうな大治郎へ、「相手が、お前より強かろうが弱かろうが、その試合には負けるのじゃ。」という。
そして、妻の三冬も「負けておやりになりなさいませ。」というではないか。
3.初孫命名
秋山大治郎と三冬との間に生まれた男の子は、なかなかの美男子であった。そして父・小兵衛は、初孫の名前の相談に、旧友の松崎助右衛門を訪ねようとしていた。
途中で腹具合がおかしくなり、駕籠を下ろしてもらって雑木林に駆け込んだ小兵衛であったが、そこで我が家に押し込み強盗をしようとする二人の話を聞いてしまった。
一体なぜ、小兵衛の隠宅から遠く離れた千駄ヶ谷の雑木林の中で、小兵衛の隠宅に押し込む相談をしているのだろうか?
4.その日の三冬
この日、三冬は久しぶりに外出をした。買い物をした後、ふと思い立って秋山父子の菩提寺に、墓参りをすることにした。
その時、突然現れた浪人風の男が、侍を切り、偶然通りかかった若い町女房を引っさらっていったのだ。
その浪人の顔を見た三冬は、驚愕した。
5. 時雨蕎麦
秋山小兵衛は、久しぶりに町医者の小川宗哲を訪ねたが、あいにく留守であった。そこで、好物の京桝屋の菓子を買おうと向かっていたところ、弟弟子の川上角五郎と出会った。角五郎は、嬉しそうに京桝屋の若い後家を女房にもらうと話した。
一方京桝屋の主人は、後家は二人いて、義母のやかましやの婆さんの方に縁談がきたと喜んでいたのだった。
6. 助太刀
秋山大治郎は、一年ぶりに土手の扇子売りに出会った。去年買った扇子の一つに、こころ惹かれるものがあったのだ。その扇子をみた小兵衛もまた、「修行を積んでいるようじゃ。」と興味を持ったようだった。
その次の日、扇子売りの男が侍三人に暴行されているのを見た大治郎は、扇子売りの男を助けた。男は、あれだけの暴行を受けながら、落ち着き払っていた。
大治郎の男に対する興味は、深まっていくのだった。
7.小判二十両
秋山小兵衛は、大治郎の家で初孫の顔を見てから、船宿の鯉屋に寄った。
そこで入ってきた町人と浪人体の五十男を見た小兵衛は、船宿の女あるじに、隠し部屋にとおすようにうながした。
浪人の方は、忘れようとて忘れられない、二十数年ぶりに見る小野田万蔵だった。
「剣客商売 勝負」年譜
書籍名 | 発表月 | 表題 | 出版社 |
---|---|---|---|
剣客商売第十一巻 勝負 | 1978年12月 | 剣の師弟 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第十一巻 勝負 | 1979年1月 | 勝負 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第十一巻 勝負 | 1979年3月 | 初孫命名 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第十一巻 勝負 | 1979年4月 | その日の三冬 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第十一巻 勝負 | 1979年6月 | 時雨蕎麦 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第十一巻 勝負 | 1979年8月 | 助太刀 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第十一巻 勝負 | 1979年9月 | 小判二十両 | 新潮社、新潮文庫 |