この「十番切り」の小編集も、心に残るエピソード揃いです。
「白い猫」も、秋山小兵衛がこの猫と出会ったことで、思わぬ展開に。
ちょっとしたことで、運命が変わります。
「浮寝鳥」では、人生の不思議さに、引き込まれてしまいます。読み終わった後、ちょっと物思いにふけりましたが、なぜだか清々しい気持ちになりました。
【主な登場人物】
■秋山小兵衛 かつての高名な剣客、今は隠居して郊外におはると住んでいる
■秋山大治郎 秋山小兵衛の息子。剣術道場を開いているが門弟は殆どいない
■おはる 19歳、小兵衛の下女であったが小兵衛に手をつけられて妻となる
■三冬 老中・田沼意次の隠し子で、女剣士。秋山大治郎の妻
■飯田粂太郎 飯田平助の子。秋山大治郎の最初の門人
■笹野新五郎 秋山大治郎の二番目の門人
■田沼意次 時の最高権力者で老中。三冬の実父
■生島次郎大夫 田沼家の用人
■弥七 小兵衛の剣術の弟子で、四谷伝馬町の御用聞き。女房は、料理屋を経営
■文蔵 弥七と親交がある御用聞き
■小川宗哲 小兵衛の友人で町医者
■傘屋の徳次郎 御用聞きの弥七の子分
■馬道の清蔵 土地の人々の信頼が厚い御用聞き
【十番切りの目次】
1.白い猫
おはるは、今朝の小兵衛の様子がいつもと違うと感じたのだが、そこはおはる、そのような事はすぐに忘れてしまった。
実はこの日、七年前に田沼屋敷で試合をした平山源左衛門と、果し合いの約定の日であった。
その場所に向かう途中、かつて四谷の道場で飼っていた白の牝猫そっくりな猫と出会う。
この白い猫に出会ったことが、その後の流れを変えてしまう。
2.密通浪人
その日、秋山小兵衛は、親友の小川宗哲を訪ねるが、あいにく留守であった。仕方なく鬼熊酒屋に寄りうたた寝するが、ふと隣の席の浪人二人の話に目が覚めた。
浪人は、人の女房を寝取るのは楽しいなどと怪しからぬ話をしていたが、その女房とは、小兵衛の義理の弟・福原理兵衛の嫁であった。
はて?
義理の弟の嫁・お米は、歳も四十半ばで米俵のように肥えているのだ。この浪人は、口から出まかせをいっているのか?
3.浮寝鳥
近辺の人々から「真崎さまのお薦さん」と呼ばれている、上品な老乞食がいた。秋山大治郎と三冬夫婦だけでなく、小兵衛も、わざわざまわり道をして、この老乞食の笠に銭を入れていた。
その老乞食が、惨殺死体で見つかった。
大治郎は、所用で江戸を留守にしていたのだが、その出発の日に、その老乞食と十五、六の少女が一緒にいるのを見ていた。
その事を御用聞きの馬道の清蔵に告げるのだが、清蔵は二人の後を尾ける男に気が付く。
4.十番切り
秋山小兵衛が碁の相手の小川宗哲を訪ねた時、宗哲は一人の患者を診ていた。その患者は、余命いくばくもないようであった。
その患者本人も、その事をよくわかっているようであったが、何やら一念があり、もう少し生きていたいと望んでいた。
その一念を問うと静かに笑うのみであった。
小兵衛は、その村上太九蔵という名前に覚えがあった。
5. 同門の酒
年に一度の武蔵屋での同門の宴に、矢村孫次郎が欠席した。
秋山小兵衛は不審に思い、弥七を伴い矢村孫次郎が身を寄せている西感寺を訪ねた。
西感寺の若い寺僧によると、武蔵屋行くと昼過ぎに出かけたという。
一体何が起こったのか?
6.逃げる人
秋山大治郎は、渡り中間から懸命に少女を救うために立ち向かった老人を見た。「おみごと」と声をかけたが、彼を見る老人の目は、鋭く光っていた。
その後、酒を飲みかわす仲となったが、お互い詮索し合うことはなかった。
その話を聞いた小兵衛は、何を思ったのかその老人を知る貞岸寺の和尚に、その老人のことを尋ねてみた。
7.罪ほろぼし
秋山小兵衛は、小川宗哲と碁を打ったあと、我が家へ急いでいた。
その時、若い浪人が背後から剣客らしい男に襲われるのを助けた。
驚いた事に、若い浪人は、「辻斬り」で秋山父子の働きで捕らえられた永井十太夫の息子・永井源太郎であった。
豆知識 仇討ち
武士の時代の慣行。士分の場合は、主君の許可が必要で、他国へ出る場合は奉行所への届け出が必要でした。その上武家の当主が殺害された場合は、嫡子が敵討しなければ家名の継承が許されないという慣行もありました。
しかし、相手が見つかることは、ほとんどなく、金銭の支援も打ち切られ、困窮することが多かったようです。
「剣客商売 十番切り」年譜
書籍名 | 発表月 | 表題 | 出版社 |
---|---|---|---|
剣客商売第十二巻 十番斬り | 1979年10月 | 白い猫 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第十二巻 十番斬り | 1980年2月 | 密通浪人 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第十二巻 十番斬り | 1980年3月 | 浮寝鳥 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第十二巻 十番斬り | 1980年4月 | 十番斬り | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第十二巻 十番斬り | 1980年5月 | 同門の酒 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第十二巻 十番斬り | 1980年6月 | 逃げる人 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第十二巻 十番斬り | 1980年7月 | 罪ほろぼし | 新潮社、新潮文庫 |