とは言え奇跡が起こるのも人生、
世の中まんざら捨てたものでもないな。
若いお福が主人公ですが、秋山小兵衛、小川宗哲それに弥七、傘屋の徳次郎も登場するのでご安心ください。
読み始めてから私の想像を上回る展開に!
池波正太郎の文体は非常にやさしい表現なのですが、読者の頭の中にイメージがふわりと浮かぶ絶妙さがあります。
この小説は、「その年の夏は、日照りつづきの暑さがつづきにつづいた。」で始まります。
小説は書き出しが重要だと言われますが、この書き出しで始まる「ないしょないしょ」にどんどん引き込まれてしまいます。
池波正太郎の文章は、とても簡潔で過剰な形容詞は使いません。
小説やテレビのニュースでよく使われる“幻想的な雰囲気を醸し出していた”という表現などは、個人的にはあまりにも陳腐に感じられます。
池波正太郎は普通の形容詞を使い短い文章を重ねながら、読者にイメージを送り続けます。
ひとりひとりの登場人物の一言が心に残ります。
三浦平四郎
「よく聞け。人には天寿というものがある。天から授かった寿命のことじゃ。これに逆らって、自分のいのちを自分で絶つことは、もってのほかじゃ。死ぬるなら、人の役に立って死ね」
お福
(たった二年の間に・・・・・)
と、お福はいつも思う。
(大人の世界は、びっくりするほど、変わってしまうものだ)
【主な登場人物】
■お福 越後・新発田城下の貧しい家に生まれるが、たくましく生きる
■神谷弥十郎 新発田の道場主、お福を下女として雇っていた
■五平 神谷弥十郎の下男、お福と一緒に江戸に出る
■三浦平四郎 御家人の隠居でお福を下女として雇う
■秋山小兵衛 江戸の高名な剣客
■倉田屋半七 水茶屋・倉田屋のあるじ
■秋山大治郎 秋山小兵衛の息子。剣術道場を開いているが門弟は殆どいない
■弥七 小兵衛の剣術の弟子で、四谷伝馬町の御用聞き。女房は、料理屋を経営
■小川宗哲 小兵衛の友人で町医者
■傘屋の徳次郎 御用聞きの弥七の子分
【ないしょないしょ】の目次
ネタバレ注意です。
1.汗
お福は雇い主の神谷弥十郎に突然襲われる。
その後彼を恨むようになるが、ある日神谷弥十郎は、急に夏羽織と袴をつけて行先も告げず出かけて行ったのだった。
2.蜩
嫌な予感していた下男の五平だったが、不安は的中し神谷弥十郎は何者かに暗殺されてしまった。
3.江戸の空
藩の奉行所取り調べを終えた五平は、「物事、何につけても人をたよってはいけねえ。この世の中には、たよりになるものなんかないと思え。」と言い、お福を連れて江戸に向かうのだった。
お福は、江戸でやさしい三浦平四郎の下女となった。
庭で手裏剣を投げていた三浦平四郎は、それを興味深そうに見ているお福に気が付き、
「お前もやって見るか?」と声をかけるのだった。
4.二年後
十八歳になったお福は、偶然両国橋で神谷弥十郎を殺したと思われる松永市九郎が歩いているのを見てしまった。
5.秋山小兵衛
ある日、三浦平四郎の家に秋山小兵衛が訪ねてきた。
親しげに話し合う二人を見て、お福は秋山小兵衛という剣客を好ましく思った。
6.碁盤の糸
三浦平四郎は、碁を打ちに花駒屋に行くようになった。
帰ってきた平四郎から碁の相手が松永市九郎だと聞いたお福は、胸が騒ぐのだった。
7.倉田屋半七
三浦平四郎が非業の死を遂げ雇い主を失ったお福は、医者の小川宗哲の下で働くか、五平がすすめる倉田屋半七の下女として働くか迷った。
8.殺刀
今度は五平も、松永市九郎の手にかかってしまう。
9.二十歳の春
置屋を営む倉田屋半七老人とお福は、お互いに心を通じ合わせていた。
そのお福に秋山小兵衛は、何か困った事があったら相談に来るように言うのだった。
10.黒い蝶
体が病に蝕まれていた倉田屋半七が、突然亡くなった。
倉田屋半七の葬式がすんだ翌朝、お福は店を継ぐことを宣言した。
11.谷中・螢沢
松永市九郎の隠れ家を突きとめた秋山小兵衛は、弥七と傘屋の徳次郎が見張る家にお福と共に向かう!
12.青い眉
お福は、倉田屋半七の腹心の部下だった富五郎を連れて新発田へ旅立った。
両親の骨を移して墓を建てるための旅であった・・・
小ネタ
「御家人」
徳川将軍家の直参家臣団のうち、将軍に謁見出来るのが「旗本」出来ないのが「御家人」であり、俸禄の高低は関係なかった。
ただ御家人の大半の俸禄は低かったので、江戸時代中頃から多くが生活に困窮した。