「竜野庄蔵は、十五年ぶりに江戸に出てきて、あの怪物を見た。」で始まるシリーズ第五弾。
本作もバラエティーに富んだ内容ですが、「西村屋お小夜」では初めて盗賊集団が登場します。同じ時期に執筆している「鬼平犯科帳」では、火付盗賊改方と盗賊達の戦いが描かれていますので、比較しても面白いでしょう。
ここに至ってもまだ、秋山大治郎と佐々木三冬の関係は、まだまだ微笑ましいかぎりで、じらされる展開が続きます。
【主な登場人物】
■秋山小兵衛 かつての高名な剣客、今は隠居して郊外におはると住んでいる
■秋山大治郎 秋山小兵衛の息子。剣術道場を開いているが門弟は殆どいない
■おはる 小兵衛の下女であったが小兵衛に手をつけられて妻となる
■佐々木三冬 老中・田沼意次の隠し子で、男装の女剣士。井関道場の四天王のひとり
■田沼意次 時の最高権力者で老中。三冬の実父
■生島次郎大夫 田沼家の用人
■弥七 小兵衛の剣術の弟子で、四谷伝馬町の御用聞き。女房は、料理屋を経営
■小川宗哲 小兵衛の友人で町医者
■傘屋の徳次郎 御用聞きの弥七の子分
■又六 鰻の辻売りをしている。素直で実直な男
■杉原秀 杉原左内の娘で、根岸流手裏剣の達人
【白い鬼の目次】
1.白い鬼
沼田藩士の竜野庄蔵は、公用で江戸に来ていた。
帰国の前日、秋山小兵衛の隠宅に向かっていると、金子伊太郎を偶然みつけてしまった。そして沼田藩士として見過ごすわけにはいかず、後をつけたのだった。
一方秋山小兵衛は、愛弟子をいまかいまかと待っていたのだが、竜野庄蔵は、ついに姿を見せなかった。
2.西村屋お小夜
佐々木三冬は、父・田沼意次の屋敷からの帰り道、木立の中で男女がからみあっているのを目撃した。男は、松屋伊兵衛の長男の利太郎、女は西村屋佐助の次女のお小夜。
しかし、西村屋は盗賊が押し入り、夫婦、老夫婦とも殺され、お小夜は盗賊に攫われているはずであった。
3.手裏剣お秀
「ごぶさたしております。」と現れたのは、鰻売りの又六だった。話をきくと、又六の母が隣から、「女を殺すのはどうも嫌だな。」という言葉を耳にしたのだという。
又六ひとりでは判断しかねて、秋山小兵衛のところに相談に来たのだった。
4.暗殺
秋山大治郎は、雷鳴が聞こえる中、異様な物音に気が付いた。それは、曲者達が一人の若い侍を襲っている音だった。
若侍を助けた大治郎であったが、若侍は「女が待っている。」という言葉を残して息絶えた。
その夜、五千石の大身旗本・杉浦丹後守正峯は、用人鈴木市兵衛と密談をかわしていた。
5. 雨避け小兵衛
その日、秋山小兵衛は、亀戸天満宮からの帰り道雨に降られ、畑の中の小屋で雨宿りをしていた。そこへ悲鳴とともに、十歳ほどの女の子を抱え右手に刀を掴んだ浪人が入ってきた。
男は、女の子の命と引き換えに五十両持って来いと、取り囲む人々に告げた。
押入れの隙間からそれを見ていた小兵衛は、その男の顔に見覚えがあった。
6. 三冬の縁談
降りけむる雨の中を、佐々木三冬が、秋山大治郎の道場を訪ねてきた。田沼の父から、縁談が持ち込まれたという。条件は、その相手と試合して負けたら、その男の元に嫁ぐというものであった。
「大丈夫。」と答えた大治郎であったが、その男の名前をきいた途端、大治郎は絶望的な目の色になってしまったのである。
7.たのまれ男
生まれてから殆ど病気になった事が無いおはるが、お腹をこわして寝込んでしまった。
秋山大治郎がそのおはるを見舞った帰り道、ひたひたと走る数人の足音を聞き、橋の欄干に身を潜めた。
そして男達が、人を荷物のように川に投げ込もうとしているのを見た。
小ネタ
江戸時代、今の世の中と違い、夜分走るという事は、何か変事が起こったという事で、ただ事ではないことを意味する。
「剣客商売 白い鬼」年譜
書籍名 | 発表月 | 表題 | 出版社 |
---|---|---|---|
剣客商売第五巻 白い鬼 | 1974年6月 | 白い鬼 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第五巻 白い鬼 | 1974年7月 | 西村屋お小夜 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第五巻 白い鬼 | 1974年8月 | 手裏剣お秀 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第五巻 白い鬼 | 1974年9月 | 暗殺 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第五巻 白い鬼 | 1974年10月 | 雨避け小兵衛 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第五巻 白い鬼 | 1974年11月 | 三冬の縁談 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第五巻 白い鬼 | 1974年12月 | たのまれ男 | 新潮社、新潮文庫 |