今回は泥棒に同情してしまう話があります。😢
「そもそも人間なぞというものはな。自分が知らぬ知恵の働きが、いくつも隠されているものなのじゃ。その知恵のはたらきが引き出されるきっかけというものがないかぎり、埋もれたままになってしまうのさ。」
所々に池波正太郎の人生観がうかがえ、深く共感いたします。
いろいろバラエティに富んだこの第七巻、様々な人間模様が描かれています。
「徳どん、逃げろ」では、泥棒に見込まれてしまった徳次郎が、この男に好感をいだいてしまい、最後どう決着を付けるのか興味がつきません。
「大江戸ゆばり組」では、ちょっとユーモアが感じられる展開で、やっぱりな、と妙に納得いたしました。
【主な登場人物】
■秋山小兵衛 かつての高名な剣客、今は隠居して郊外におはると住んでいる
■秋山大治郎 秋山小兵衛の息子。剣術道場を開いているが門弟は殆どいない
■おはる 小兵衛の下女であったが小兵衛に手をつけられて妻となる
■三冬 老中・田沼意次の隠し子で、女剣士。秋山大治郎の妻となる
■飯田粂太郎 飯田平助の子。秋山大治郎の唯一の門人
■田沼意次 時の最高権力者で老中。三冬の実父
■生島次郎大夫 田沼家の用人
■弥七 小兵衛の剣術の弟子で、四谷伝馬町の御用聞き。女房は、料理屋を経営
■小川宗哲 小兵衛の友人で町医者
■傘屋の徳次郎 御用聞きの弥七の子分
■又六 鰻の辻売りをしている。素直で実直な男
■植村友之助 かつて秋山小兵衛の弟子で、逸材といわれた男
■為七 知的障害の中年のかわいそうな男
【隠れ蓑の目次】
1.春愁
久しぶりに家を訪ねてきた刀屋の嶋屋孫助から、後藤角之助を見かけたときいた秋山小兵衛の目が、きらりと光った。小兵衛には、彼を斬らなければならない理由があった。
ちょうど十二年前、小兵衛の門人で特に可愛がっていた笠井駒太郎という若者が、突然殺害された。その駒太郎を殺したのが、嶋屋孫助が居所を突き止めたという後藤角之助であった。
2.徳どん、逃げろ
その日、中間部屋で博奕をしていた傘屋の徳次郎は、ある男に声をかけられた。その男は、徳次郎のどこが気に入ったのか、一緒に盗みをしようと言うのだ。
そしてその男・八郎吾が盗みに入ろうと計画しているのは、なんと秋山小兵衛とおはるの家だった。
笑いをこらえるのに懸命な徳次郎であったが、どうしてもこの八郎吾が憎めないのである。
3.隠れ蓑
秋山大治郎は、三人の立派な身なりの侍に暴行を受け試し斬りにされかかった老僧を救った。そこに座り込んで合掌している老僧には、見覚えがあった。
一昨年の春、浅田忠蔵に関わる事件が解決した後、江戸に戻る途中、山道でこの托鉢僧を見かけたのである。
その時、この托鉢僧は、同年配の盲目の老武士と連れ立っていたのだが。
4.梅雨の柚の花
秋山大治郎の門人が、一人増えた。田沼意次の用人・生島次郎大夫からたのまれた笹野新五郎である。彼は、三年前何者かに殺害された朝倉平太夫の門人であった。笹野新五郎の稽古をみた三冬は、彼の体から凄まじいばかりの殺気が噴き出しているのをみてしまう。
一体彼は、何のために酒を断って修行を始めたのだろうか。
5. 大江戸ゆばり組
笹野新五郎に代わって仕返しを成し遂げた秋山小兵衛であったが、又六からその後の話を聞いた。
その相手の妾のおきんは、相手が屋敷から出られなくなったため、手切れ金をもらい失業してしまったという。そして、おきんは次の旦那を見つけていたが、今度の旦那が気に食わなければ、たった一晩で手を切る方法があると言っているらしい。
その新しい旦那はなんと、秋山小兵衛の古い友だちであった。
6. 越後屋騒ぎ
久しぶりに植村友之助宅を訪れた秋山小兵衛の帰り道。小兵衛は、男達に誘拐されそうになっていた子供を助けた。
その子は、蠟燭問屋の越後屋半兵衛の孫であった。妙な事に、お礼に来たのは越後屋本人ではなく、番頭であった。
何かこれには裏があると考えた、小兵衛は・・・
7.決闘・高田の馬場
間宮道場を出た秋山大治郎は、父の弟子・吉村弥惣治とすれ違った。その吉村弥惣治は、大治郎に気が付かないほど、何やら思いつめた様子であった。
その理由は、彼の主人・高木筑後守元好が、久世帯刀と、とんでもない物を賭けて、久世帯刀の家来・羽賀儀平と試合をすることになったからである。
この試合、どちらが勝っても双方の家が、取りつぶしになりかねないのである。
どうする吉村弥惣治・・・
「剣客商売 隠れ蓑」年譜
書籍名 | 発表月 | 表題 | 出版社 |
---|---|---|---|
剣客商売第七巻 隠れ蓑 | 1976年2月 | 春愁 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第七巻 隠れ蓑 | 1976年3月 | 徳どん、逃げろ | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第七巻 隠れ蓑 | 1976年4月 | 隠れ蓑 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第七巻 隠れ蓑 | 1976年5月 | 梅雨の柚の花 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第七巻 隠れ蓑 | 1976年6月 | 大江戸ゆばり組 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第七巻 隠れ蓑 | 1976年7月 | 越後屋騒ぎ | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第七巻 隠れ蓑 | 1976年8月 | 決闘・高田の馬場 | 新潮社、新潮文庫 |