「おのれの強さは他人に見せるものではない。おのれに見せるものよ。このことを、ゆめゆめ忘れるな」
そして池波正太郎は、ひとりひとりの登場を愛情をこめて丹念に描きます。
秋山小兵衛を通して、池波正太郎の人生観を述べているようです。
ここが、池波正太郎の世界の魅力ですね。
この巻から、同時期に書かれた「仕掛人・藤枝梅安」や「鬼平犯科帳」の世界とリンクしていきます。
ホラーの帝王と呼ばれるスティーブン・キングも、いくつかの小説の舞台や設定につながりがあります。彼らの頭の中には、彼ら自身の世界が見事に構築されているようです。ここが、並みの作家と違うところですね。
【主な登場人物】
■秋山小兵衛 かつての高名な剣客、今は隠居して郊外におはると住んでいる
■秋山大治郎 秋山小兵衛の息子。剣術道場を開いているが門弟は殆どいない
■おはる 小兵衛の下女であったが小兵衛に手をつけられて妻となる
■三冬 老中・田沼意次の隠し子で、女剣士。秋山大治郎の妻となる。
■飯田粂太郎 飯田平助の子。秋山大治郎の唯一の門人
■田沼意次 時の最高権力者で老中。三冬の実父
■生島次郎大夫 田沼家の用人
■弥七 小兵衛の剣術の弟子で、四谷伝馬町の御用聞き。女房は、料理屋を経営
■文蔵 弥七と親交がある御用聞き
■小川宗哲 小兵衛の友人で町医者
■傘屋の徳次郎 御用聞きの弥七の子分
■又六 鰻の辻売りをしている。素直で実直な男
■杉原秀 杉原左内の娘で、根岸流手裏剣の達人
■植村友之助 かつて秋山小兵衛の弟子で、逸材といわれた男
■為七 知的障害の中年のかわいそうな男
【狂乱の目次】
1.毒婦
「たまには、元長にでも行ってみようか。」と、おはると一緒に元長を訪れた秋山小兵衛。
その時階下では、大工の由次郎が元長の主人・長次を殴りつけていた。その理由は、由次郎の嫁のおきよをかくまっていたからだった。
その場を治めた小兵衛は、由次郎から話をきいてみた。
次の日、小兵衛の後をつけていたのは、意外にも元長の長次であった。彼の話では、おきよは、とんでもない女だという。
2.狐雨
虫の知らせか、田沼道場の稽古を終えた秋山大治郎は、ふと杉本又太郎の顔が頭に浮かび、杉本道場に向かうことにした。その杉本道場では、何者かが、杉本又太郎に今にも刃を突き入れようとしていた。心配する大治郎に、又太郎は、大丈夫だという。
実は又太郎は、元の主人・松平修理之助の屋敷から、相思相愛の息女・小枝を引っさらっていたのだった。
その剣術が弱い道場主の又太郎が、突然強くなった。一体何が起こったのか?
3.狂乱
久しぶりに牛堀九万之助の道場を訪れた秋山小兵衛は、牛堀道場の高弟達を次々になぎ倒す石山甚市を見た。石山は、牛堀九万之助に試合を申し込むが、とても勝てぬと悟り退出する。
彼は藤堂家の足軽であったが、今は大身旗本・本多丹波守の家人となっていた。身分が低いにもかかわらず剣術が強すぎるため、皆から疎まれ孤独になっていた。彼の鬱屈してした精神は、だんだんと凶暴さを増していくのであった。
4.仁三郎の顔
傘屋の徳次郎は、岩戸の繁蔵から盗賊の黒羽の仁三郎が、江戸に戻ってきていることを聞いた。黒羽の仁三郎は、かつて弥七の下で働いていた佐平に、恨みをいだいている。
一方奇妙な縁で、秋山大治郎は、この黒羽の仁三郎を以前助けたことがあった。
5.女と男
秋山小兵衛は、船着き場で、女を無理やり連れ去ろうとしていた三人の侍から、女を助けた。
その後またその女を見かけた時、女は薄汚れた浪人に強引に手を引かれて、木立の中に入っていった。よくよく見ると、その瘦せこけた浪人は、かつて小兵衛のもとで修業をしていた紅顔の少年・高瀬照太郎だと気付き、愕然とする。
6. 秋の炬燵
手裏剣の名手・杉原秀は、秋山小兵衛宅に向かっていた時、殺されそうになっていた幼い男の子を助けた。
この殺しを仕掛けたのは、香具師の元締・白金の徳蔵であったが、なぜこの幼い男の子の命を狙ったのであろうか。
「剣客商売 狂乱」年譜
書籍名 | 発表月 | 表題 | 出版社 |
---|---|---|---|
剣客商売第八巻 狂乱 | 1976年9月 | 毒婦 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第八巻 狂乱 | 1976年10月 | 狐雨 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第八巻 狂乱 | 1976年11月 | 狂乱 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第八巻 狂乱 | 1976年12月 | 仁三郎の顔 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第八巻 狂乱 | 1977年1月 | 女と男 | 新潮社、新潮文庫 |
剣客商売第八巻 狂乱 | 1977年2月 | 秋の炬燵 | 新潮社、新潮文庫 |